言壺 神林長平

ワーカムと呼ばれる文章作成マシンが普及した世界での、時代や立場の違う主人公を描くオムニバス。
ワーカムによってあらゆる文章が“正しく”修正され、“間違った”文章は存在できない。
そこから「言葉とは何なのか」が浮き彫りにされてくる。

ワーカムは入力された文章を「正しく」修正しようとする。ワーカムに認められない「正しくない」文章は記録されない。
自らが表現したい文章をなんとかワーカムに認めさせるため苦心する作家の努力から、やがて焦点は文章と人間の認識の関係へと移っていく。


とある章では、言葉とは文字や音声よりも前から存在していたという概念が描かれる。
文字や会話はそれが形を変えて表出したという、作品中では単に言葉と呼ばれているが、言い換えれば言葉の素となる「言素(げんそ)」とでもいうべきものがあるというのは面白い。