感情移入とボイスオフ

ノベルゲームなどで主人公への感情移入を高める、主人公と同じ体験をするために主人公のボイスをオフにする、またはBGMをオフにすると言う発言を稀に見かける。
しかしそれは全く無意味、逆効果であると言わざるを得ない。

 

映画やゲームや漫画などのメディアではなく現実世界での事象によって心が動かされる時、それは単一の要素ではなく多くの要素が絡まりあっている。
大切な人からの言葉が心に深く染みこんで涙を流した。その時心が動かされたのは文字に書き出すことができる言葉という情報と、その人が言ったという事実だけではないはず。
その言葉を言った時のその人の表情、しぐさ、声色、その場の雰囲気、自分の心理状態など多くの要素があるはず。
さらにその人と過去過ごした時間、思い出などが自分の中にその人のイメージを構築しており、そういったものも加味される。

だがゲームでプレイヤーに与えられる情報は基本的に、文字・声・絵・BGMといった要素だけである。
しかも主人公が過去に体験してきたことの全てをプレイヤーが同様に体験している訳では無い。
なので主人公がとある状況に置かれたときに、プレイヤーが主人公と同じ心情になる保証は無い。
しかし、少しでもプレイヤーの心情を主人公の心情に近づける道具があり、その中でも大きなものが声やBGMである。
恋人から別れを切り出された主人公が「わかった」と言った場合でも、声優の演技によってそれが未練を残した辛い言葉なのか、諦めが付いた上での言葉なのか、何も感情の籠らない言葉なのか、裏工作が成功して嬉しさが混ざった言葉なのか。
さらにそれにBGMを被せることによって、言葉ではさっぱりと諦めてる口調だが内心はとてつもなく辛いということも表現できてしまう。
そういったのシーンでボイスやBGMをオフにしていた場合、主人公と一体化するどころかプレイヤーと主人公の感情が乖離していくことになる。
あなたが全く辛いと思わない場面でも主人公は辛いと感じてるかもしれないのだ。その差を埋めてくれる演出が声の演技やBGMなのである。

作品によっては地の文で「俺は辛さを押し殺し感情を込めない口調で言った。」などと説明されることもある。
しかしフルボイスの作品では声優の演技によってそういった演出を表現しているということで無駄な説明文を書かないものも多い。

 

結論として、ボイスやBGMをオフにすることが感情移入の手助けになることよりも、むしろ阻害する可能性のほうが格段に高いということである。
もし上記の理由でボイスオフにしている方で、「他人と違うプレイをしてるカッケー俺」をアピールするのが目的でないのなら一度良く考えてみてはどうだろうか。